東京高等裁判所 昭和24年(ネ)301号 判決
(一) 本訴について、第一審判決を取り消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。
(二) 反訴について、第一審判決取消の上、
第一、被控訴人奥谷は控訴人に対し金一万六千円と引換に横浜市南区通町三丁目五十五番地所在(イ)家屋番号二一三番木造亜鉛葺平家建居宅建坪八坪七合五勺、(ロ)家屋番号二一二番木造亜鉛葺平家建ガレーヂ兼居宅建坪十四坪、(ハ)家屋番号二一二番ノ二木造瓦葺二階建居宅建坪十三坪九合五勺外二階九坪六合二勺の建物につき昭和十八年八月十一日の賣買に因る所有権移轉登記手続をせよ。
右請求が容れられないならば、
第二、被控訴人奥谷は控訴人に対し金七万円及びこれに対する昭和二十三年一月二十五日から右金額完済に至るまで年五分の割合による金員を支拂え。
被控訴人鈴木並びに被控訴人奥谷は昭和二十一年一月三十日横浜区裁判所受付第七五七号を以て前記建物につきなされた被控訴人奥谷先代寅藏、被控訴人鈴木間の昭和二十年八月二十七日付賣買に因る所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。
右請求が容れられないならば、
第三、被控訴人奥谷先代と被控訴人鈴木との間において昭和十九年八月二十三日右建物について成立した賣買を取り消す。
被控訴人鈴木は控訴人に対し昭和二十一年一月三十日横浜区裁判所受付第七五七号を以て右建物についてなされた前記賣買に因る所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。
右請求も容れられないならば、
第四、被控訴人奥谷、被控訴人鈴木は控訴人に対し被控訴人奥谷先代と被控訴人鈴木との間において昭和十九年八月二十三日右建物について成立した賣買は無効なることを確認する。被控訴人奥谷、被控訴人鈴木は控訴人に対し昭和二十一年一月三十日横浜区裁判所受付第七五七号を以て右建物についてなされた前記賣買に因る所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。
との判決並びに金員の支拂請求部分について仮執行の宣言を求める。
各被控訴代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は各被控訴代理人において、「被控訴人奥谷先代寅藏と控訴人間の本件建物賣買契約の消滅原因としては合意解除の事実のみを主張し、その他は主張しない。尚右合意解除は控訴人と訴外鈴木庄三郎との間になされたもので同訴外人は右について正当に奥谷寅藏を代理する権限を持つていたものである。」と陳述し、更に被控訴人鈴木代理人において「仮に右賣買契約が合意解除により消滅しなかつたとしても、奥谷寅藏と被控訴人鈴木との間の本件建物賣買契約は正当になされたものであつて、而も控訴人は未だ登記手続を経由しないのに反し鈴木は既に登記を了したから、その所有権取得を以て控訴人に対抗することができる。」と述べ、控訴代理人において、「(一)本案前の抗弁は撤回するが被控訴人鈴木の本訴における参加については不適法であるから参加申立の却下を求める。(二)原判決事実摘示中「建物明渡及び代金支拂時期同月末日と定めて賣渡し、」とあるも、右は、被控訴人奥谷が原審において主張した「その居住者全部を同月(八月)末日迄に明け渡すこと、それと同時に残代金を支拂うこと」なる主張を故意に逸脱したもので、控訴人が右事実摘示の主張を認めたのは、右逸脱された前提條件ある故にそれを認めたものである。(三)被控訴人等主張の合意解除の事実はこれを否認する。仮に控訴人と被控訴人先代寅藏の代理人鈴木庄三郎との間に本件賣買契約の解除の合意が成立したとしても、鈴木庄三郎の代理権の範囲は右賣買の代金を請求してこれを受け取ることに限定されて居り、契約を解除する権限は持つていなかつたものであるから、右合意解除は無効である。(四)被控訴人鈴木と奥谷寅藏との間の賣買は從前主張の通り虚僞仮装のものであるから被控訴人鈴木は本件建物の所有者ではない。(五)そもそも、控訴人は、昭和十八年八月十一日右寅藏から同人が奥谷こう名義で所有する本件建物三棟を代金一万六千五百円とし手附金五百円は即日支拂い、残代金は同建物の居住者全部が立ち退いた時所有権移轉登記と引換に支拂う約束で買受けた。ところが昭和十九年三月初めに至つて漸く最後の居住者橋本竹次郎が立ち退いたので、控訴人は、訴外長谷川時雄を代理人として同年三月七日右代金受領の権限を有する鈴木庄三郎に対して残代金一万六千円を提供し、所有権移轉登記を求めたところ、その登記申請書に記載する賣買金額について紛爭を生じ、右鈴木が登記を拒絶したため、同日登記を終了するに至らなかつた。以上の事実によると、被控訴人奥谷先代は、賣買残代金の受領遅滞にあるものであるから、控訴人は、被控訴人奥谷に対して残代金と引換に本件建物三棟の所有権移轉登記手続を求める。(六)本件建物に対する被控訴人鈴木の所有権取得登記申請は、昭和二十一年一月三十日受付にて右奥谷先代と被控訴人鈴木との間の昭和二十年八月二十七日賣買に因る所有権取得登記を原因として申請され、登記簿上そのように記載されているが、昭和二十年には右先代は既に死亡しているから契約が行われる筈がなく、登記申請書添付の賣買契約書は僞造のものである。仮に右先代生前に契約が行われたとしても、右賣買契約書によれば、事実の賣買日時は、昭和十九年八月二十七日となつて居り、同日は建物はまだ訴外古幡英子の所有に属していたものであり、又右登記当時右先代は死亡して居り登記義務者は死亡者名義で登記手続が行われている。從つて右登記申請は不適法でその登記は登記原因なくしてなされた無効のものであるから、被控訴人鈴木はその所有権を以て控訴人に対抗することができない。しかるところ、控訴人は前記の如く昭和十八年八月十一日賣買に因り奥谷先代より本件建物の所有権を取得したものゆえ、右先代の包括承継人たる被控訴人奥谷に対し右建物の所有権取得登記請求権を有しているから、前記被控訴人奥谷先代及び被控訴人鈴木間の所有権取得登記の欠缺を主張する正当の取引関係にあるのでこれが抹消登記手続を求める。(七)仮に右主張が理由ないとしても、控訴人は、被控訴人先代に対して昭和十八年八月十一日成立した賣買契約に基き本件建物について右賣買契約の効力として引渡請求権を有していたところ、債務者である右先代は被控訴人鈴木に対し昭和十九年八月二十三日控訴人の右引渡請求権を詐害することを知つて右建物を賣り渡し、且つその際被控訴人鈴木も前記詐害の事実を知つていたものである。(八)前記の如き事情の下になされた右賣買はその当事者たる被控訴人奥谷先代及び被控訴人鈴木が控訴人の右先代に対して有していた前記賣買に基く本件建物の取得登記請求権を喪失せしめる目的のためにした各賣買契約締結自由権の濫用に基く行爲であり、右賣買は無効であるから、右賣買に基く前記所有権取得登記は控訴人に対して抹消せらるべきである。」と補述した外は、いずれも原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
第一、被控訴人奥谷から控訴人に対する本訴請求について審究する。
被控訴人先代奥谷寅藏が本件建物の所有者であつたこと、控訴人が昭和十九年一月以來右建物を占有していることは当事者間爭なく、成立に爭なき乙第一号証及び原審証人庄司清士原審竝びに当審(第一回)における控訴本人(被告本人)水野半山の各供述を綜合すれば、被控訴人奥谷先代寅藏が昭和十八年八月十一日控訴人に対し右建物を代金一万六千五百円とし、内金五百円は即日支拂い、残金一万六千円は上野二郎等居住者全部を同月三十日までに立ち退かした上所有権移轉登記と同時に支拂う約にて賣り渡した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
しかるところ、原審証人石井壽助、原審竝びに当審証人鈴木庄三郎(原審第一、二回)庄司清士の各供述を綜合すれば、被控訴人奥谷先代寅藏は、有限責任横浜信用組合に対し、約一万五千円の債務を負担し、その担保として、本件建物に抵当権を設定してあつたが、その返済ができないため、右組合に対し建物の引取方を申し込み組合としても債権の回收ができないため、右寅藏と組合の両者においてそれぞれ買手を物色していたところ、昭和十八年八月頃寅藏が控訴人より本件建物買受の希望を告げられ前記認定の通り控訴人との本件賣買契約が成立するに至つたこと、当時右寅藏は、郷里茨城縣に引上げていた関係上、右代金取立その他抵当建物の処分に関する権限を債権者である横浜信用組合に委任し、また右建物の從來の居住者の明渡方を友人庄司清士に依頼したこと、庄司は、右依頼に基き昭和十九年一月頃までに從來の居住者上野二郎等を全部立ち退かせ、控訴人に本件建物を引き渡し、控訴人がこれに居住するに至つたこと、そこで右組合は控訴人に対し右残代金一万六千円の支拂を請求したが、その再三の督促に対し、控訴人は、徒らに猶予を求めるのみで金策ができず、結局昭和十九年三月一日頃右組合事務所において右奥谷寅藏の代理人たる組合の職員として、その衝に当つていた理事石井壽助及び主事鈴木庄三郎に対して同月五日まで猶予を求め、若し同日までに支拂ができないときは契約を解除して呉れと申し込んだので、同人等はこれを承諾したが、遂に同月五日までに支拂ができなかつた事実を認めることができる。控訴本人(被告本人)水野半山の原審竝びに当審における供述中右認定に反する部分はたやすく信用し難く、控訴人提出援用にかかる他の全証拠によるも右認定を左右するに足りない。右認定の事実によれば、右組合が奥谷寅藏より委任を受けた右代金の取立その他抵当建物の処分に関する権限中には、抵当物件である本件建物につきなされた右賣買契約の合意解除の権限も当然包含されているものと見るのが至当であり、右代理権行使の衝に当つた前記理事石井壽助主事鈴木庄三郎と控訴人との間の右契約解除の合意は正当な代理権に基くものであることが明かであるから、右賣買契約は昭和十九年三月五日の経過と共に合意解除となつたものと判定せざるを得ない。
從つて控訴人の本件建物に対する爾後の占有は、所有者たる奥谷寅藏に対抗し得ない不法の占有であり、これがため右寅藏に相当賃料の損害を蒙らしめていることが明かであつて、原審証人浦部扶司、橋本竹次郎(第一回)、上野二郎の各供述によれば、本件建物は昭和十二、三年頃の建築にかかり、以來寅藏自ら居住していたが、昭和十六、七年項になつて初めて橋本竹次郎、上野二郎両名に賃貸したが、その際の家賃が月金百五十三円である事実が認められ、右認定に反する証拠もないから、その時から昭和二十二年八月三十一日までの右建物の家賃停止統制額は右と同額であり、その相当賃料も反証なき限り同額を以つて相当と認める。
そして、被控訴人奥谷先代寅藏が昭和十九年九月九日に死亡し被控訴人奥谷順一が家督相続をした事実は当事者間に爭がないから、被控訴人奥谷はこれによりその先代の有していた右損害賠償債権を取得するとともに、右相続後は、控訴人の右不法占有による損害は同被控訴人について生じた訳である。よつて控訴人に対し、昭和十九年六月一日から同年八月二十二日まで右相当賃料額の範囲内である一ケ月金百円の割合による損害金の支拂を求める同被控訴人の請求は正当である。
第二、被控訴人(参加人)鈴木から控訴人に対する参加請求について審究する。
控訴代理人は被控訴人鈴木留吉の本訴における参加は不適法であるとの理由で参加申立の却下を求めているが、本件記録によれば、同被控訴人(参加人)は、最初昭和二十一年八月二十日附を以て本訴の原被告双方を相手取り、原告に対しては本件建物の所有権の確認、被告に対しては本件建物の明渡竝びに家賃損害金の支拂を求める旨の請求趣旨を記載した参加申立書を提出したが、その後同年十月八日附で請求趣旨を被告に対してのみ本件建物の所有権確認及びその明渡竝びに損害金支拂を求めることに訂正する旨記載した参加訴訟訂正申立なる書面を提出し、昭和二十一年十一月十九日原審口頭弁論において右両書面に基いて請求の趣旨竝びに原因が陳述せられた結果、同被控訴人が原被告間の本訴に当事者として参加して請求をなす範囲は被告に対してのみ前記訂正申立書に記載の程度に限定せられるに至つたもので全く民事訴訟法第七十三條第七十一條によつて参加承継をなしたものであることが明らかであるが、およそこのような場合、承継人は必ずしも本訴の原被告双方を相手取つて参加をなすことを要せず、承継人の前主たる本訴原告が訴訟物の承継、すなわち訴訟の目的たる権利の移轉に基く帰属関係を爭う場合は格別、そうでない限り本訴被告のみを相手取つて参加をなすことも又なしうるところであるというべく、このことは、民事訴訟法第七十三條が、参加人並びにその前主のそれぞれ相手方に対する請求を同一視して訴提起の効果の承継を認めた点からいつても明らかなところであつて、さらに記録によれば、参加人(被控訴人)鈴木留吉の前主たる原告(被控訴人)奥谷順一は前記昭和二十一年十一月十九日の原審口頭弁論において、参加人の主張事実全部を認め、被告に対する請求を減縮し被告に対しては最早本件建物の明渡を求めず、(右請求の減縮については被告において遅滞なく異議をのべた事跡がないから結局同意したものと認むべきである。)ここに参加人の請求と両立する原告の請求は消滅するに至つたのであるから、参加人鈴木留吉が、前記参加訴状訂正申立において当初原被告双方を相手取り参加の申立をしたのを改めて被告のみを相手方とすることにしたのは正当であつて何等参加の要件にかけるところなく、仮に当初の参加申立書の送達により一旦適法に参加人と原被告間に参加訴訟が係属したものとしても、前記昭和二十一年十一月十九日の原審口頭弁論の経過に徴し、原告は訴訟物の承継のあつた限度において適法に脱退したものと認めるのが相当であるから本件参加申立を不適法なりとしてこれが却下を求める控訴人の申立は失当である。
次に、被控訴人鈴木の主張事実中、被控訴人奥谷先代寅藏が本件建物の所有者であつた事実、控訴人が昭和十九年一月以來これを占有している事実は当事者間に爭なく、原審証人早稲本六一、富沢栄、原審における原告法定代理人奥谷こう、原審竝びに当審における被控訴本人(参加本人)鈴木留吉の各供述及びこれらの供述によつて眞正に成立したと認める丙第二号証を綜合すれば、昭和十九年八月二十三日横浜市南区通町三丁目五十三番地早稲本六一方で同人及び橋本竹次郎、浦部扶司、大石良知、富沢栄立会の上、被控訴人先代寅藏は、被控訴人鈴木に対し本件建物を代金一万七千円にて賣り渡し即時内金六千円を受領し、残金は当時この建物に居住していた控訴人を被控訴人先代寅藏において立ち退かしめて被控訴人鈴木に引き渡し登記すると同時に支拂を受ける約定をした事実を認めることができる。もつとも成立に爭のない丙第一号証には右寅藏死亡後である昭和二十年八月二十七日に賣買があつたような記載があるが、原審証人富沢栄の供述に成立に爭なき丙第七号証(賣渡証書)を合せ考えれば、前記のように昭和十九年八月二十三日賣買は成立したのであるが、寅藏は直ちに出征し、同人から後事一切を託された富沢栄が昭和二十一年一月三十日被控訴人鈴木と共に登記手続を行う際代書人に作成させた賣買証書に賣買成立の日が昭和十九年八月二十七日と誤記され、それが更に登記簿に昭和二十年八月二十七日と誤つて記入されたことが窺われるから丙第一号証は右認定を妨げる資料とはなし難い。
ところで控訴人は、右賣買は通謀虚僞表示であつて無効であると抗爭するが、これを認めるに足る何等の証拠はなく、却つて原審証人浦部扶司(第二回)、早稲本六一、橋本竹次郎(第二回)原告竝びに当審における被控訴本人(参加本人)鈴木留吉の各供述及び同鈴木の供述により眞正に成立したものと認める丙第三号証、同第四号証の一ないし五、同第六号証の一、二を綜合すれば、右奥谷寅藏は、先に認定したように横浜信用組合に対し本件建物を抵当として多額の負債があり、この負債を整理する目的で右建物を控訴人に賣り渡したが、代金の支拂がないため、合意上解除し、更に古幡英子に賣り渡したが、控訴人がこの建物を明け渡さないため、古幡からの申込により、同人との契約も解除するの止むなきに至り、更にその頃右寅藏が出征を間近に控えて財産整理に困却しているのを見兼ねた友人浦部扶司、早稲本六一、橋本竹次郎等が共同してこれを買い受けようとしたが、多数人では面倒であるので結局被控訴人鈴木に買取方を懇請した結果、遂に同被控訴人自ら居住する目的でこれを買い受けるに至つたこと、同被控訴人は即日金六千円を寅藏に支拂つた外寅藏が右信用組合に対して負担していた債務七千円余の利息を昭和十九年十二月二十八日、昭和二十年四月三十日に支拂つたが更に翌二十一年一月二十八日元利金の残七千三百九十一円八十一銭を寅藏に代つて弁済し、残金千円余を寅藏の妻であり被控訴人奥谷順一の親権者である奥谷こうに支拂つて一切の清算を終え、同月三十日所有権取得登記を受けた事実が認められ、右認定事実からすれば右寅藏と被控訴人鈴木との間の右賣買は眞意で行われたものであることが明かであるから、控訴人の抗弁は採用し難い。
更に控訴人は、反訴において主張しているように右賣買は詐害行爲であるからその取消を求めると抗爭するがその理由のないことは後述の通りである。
なお控訴人は被控訴人鈴木の所有権取得登記は後述の如く手続の不適法や登記原因の欠缺のため無効であるから、同被控訴人はその所有権を控訴人に対抗し得ないと抗弁するが、控訴人買受の賣買契約は前認定の通り既に昭和十九年三月五日合意上解除されて居るので、控訴人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者といいえない。同被控訴人としては、同人と右寅藏との賣買が前認定の如く眞実のものである以上これが登記の有無に拘わらず控訴人に対してはその所有権を主張し得るから、この抗弁もまた失当である。
このように本件建物が被控訴人鈴木の所有であることは疑いのないところであり、他面控訴人は極力これを爭つているのであるから、控訴人に対しこれが所有権の確認を求める同被控訴人の請求は正当といわねばならない。
次に控訴人が同被控訴人の所有権取得後も本件建物に居住していることは控訴人の認めるところであり、これが権原につき首肯するに足る主張も立証もないのであるから、控訴人の右占有は不法となすの外なく、從つて所有権に基き控訴人に明渡を求める同被控訴人の請求も亦正当であり、控訴人が右建物を占有することにより同被控訴人にその所有権取得以降建物の相当賃料に当る損害を加えつつあることは明かであるから、これが賠償をなすべき義務あることは勿論であつて、その損害の額は、前認定のように右建物の建築時期が昭和十二、三年であること、昭和二十二年八月三十一日における家賃停止統制額が一ケ月金百五十三円である事実に昭和二十二年九月一日物價廳告示第五四二号、昭和二十三年十月九日同廳告示第一〇一二号を適用すれば右建物賃料の停止統制額は昭和二十二年九月一日から昭和二十三年十月十日までは金三百八十二円五十銭同月十一日以後は金九百五十六円二十五銭であるから反証のない限り、右建物の相当賃料は右と同額である、よつて控訴人に対し、昭和二十一年一月三十一日から建物明渡済に至るまで、右相当賃料額の範囲内である一ケ月金百円の割合による損害金の支拂を求める同被控訴人の請求も亦正当である。
第三、控訴人の反訴請求について審究する。
先ず控訴の趣旨(二)の第一の請求については前認定のように控訴人の登記請求権は昭和十九年三月五日賣買契約が合意上解除となつたことにより、既に消滅に帰したから、その余の点について判断するまでもなく失当である。
同上第二の請求の内債務不履行に因る損害賠償を求める部分も控訴人は右認定の合意解除により本件建物の所有権移轉請求権を既に喪失しているので、その後昭和十九年八月二十三日被控訴人先代が右建物を被控訴人鈴木に賣り渡しその登記を経由したとてこれにより控訴人が建物の所有権を喪失したものとはならないがら、その價格相当の損害を受けたと主張して被控訴人奥谷に賠償を求める請求は失当である。
また不法行為に基く損害賠償を求める部分については、被控訴人先代寅藏が前述の如く本件建物を被控訴人鈴木に賣り渡した事実及び右先代寅藏の名において昭和十九年十二月八日控訴人に対し右建物明渡を求める訴が提起されたことは、被控訴人奥谷の認めるところであるが、右明渡の訴は所有権に基くものであると共に、賣買契約解除による原状回復義務の履行を求める趣旨をも含んでいることはその訴状自体により認められるところであり、控訴人は右寅藏との賣買契約が前述の如く合意解除となつた結果、既に引渡を受けていた本件建物は原状回復義務の履行として、これを同被控訴人先代に明け渡すべき義務を負担していたものであるから、右訴は当然主張し得る権利を行使せんとしたもので何等違法性は認められないから、これを不法行為と目することはできない。從つて他の爭点を判断するまでもなく同被控訴人に対する本請求は失当である。
次に所有権取得登記の抹消登記手続を求める部分については控訴人は、前に述べた通り被控訴人奥谷に対しては右建物の所有権取得登記請求権を既に喪失しているのであるから、被控訴人鈴木の所有権取得登記の欠缺を主張する正当な取引関係にあるものとは言い難い。よつてそのしからざること主張して被控訴人等に抹消登記手続を求める請求も失当である。
次に同上第三の請求については、控訴人の被控訴人奥谷に対する本件建物引渡請求権は、同人等間の賣買契約が前述の如く合意解除となつた以上既に消滅に帰したものであり、仮りに建物引渡請求権の如きものが詐害行為の被保全債権たり得るとしても既にその債権の無いところに詐害行為はあり得ないから、他の爭点の判断をなすまでもなく、本請求もまた失当である。
同上第四の請求については控訴人は被控訴人先代寅藏と被控訴人鈴木との間の賣買は、控訴人の建物取得登記請求権を喪失せしめる目的のためにしたもので賣買契約締結自由権の濫用行為で無効であると主張するが、右賣買が成立するに至つた事情は、先に認定した通り被控訴人先代の財産整理と被控訴人鈴木の本件建物に居住する必要上行れたもの即ち契約当事者の利益のためになされたもので、同人等には何等の利益なく唯控訴人に本件建物の取得登記請求権を喪失せしめ、これに損害を與えることのみを目的としたものとは認められないから、右契約当事者の賣買を権利濫用行為ということはできない。よつてその無効を主張して抹消登記手続を求めるこの請求も亦失当であるといわねばならない。
よつて被控訴人等の請求はいずれもこれを認容すべきも、控訴人の反訴請求はすべてこれを棄却すべく、從つて右と同趣旨に出た原判決は相当であり、控訴はその理由がないから民事訴訟法第三百八十四條第一項第九十五條第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)